【実践記】主人公と社会問題を組み合わせて物語を考えてみた結果は?

物語
【実践記】主人公と社会の問題を組み合わせて物語を考えてみた

物語の作り方は、人によって千差万別だと思う。もしかしたら王道というものが有るのかも知れないが、私はまだ見つけていない。

物語を作るのも万年初心者の私には、理屈ばかり考えても、表現ばかり苦心しても上手くいかないと思っている。

考え過ぎずに、できるだけたくさんの物語を作ってみることが大事だと思う。

だから、小さな物語を時間を掛けずに、形になる様にまとめることを目標にしたい。

偶然の組み合わせの力を借りる

物語をまだ作り慣れていない私には、温めているアイデアやテーマみたいなものはない。

だから、今の段階では物語の始まり、物語の種、物語の発端、物語のきっかけみたいなものは、「偶然の組み合わせ」の力を借りたいと思う。

「自分は物語で何を訴えたいのか?」
「果たして自分の中に訴えたいものがあるのか?」

という根本的な問題を悩みだすと手が動かない。難しく考えずに、最初の段階を「偶然の力」によって乗り越えたいと思うのだ。

偶然の組み合わせというのは、物語が転がりだすために必要な最初の要素のことで、「主人公」と「社会の問題」だと私は考えている。

物語というのは、主人公が何かの問題を解決する、あるいは解決しようとするドラマだと思うからだ。

ある主人公が居て、そこに社会が抱える問題が掛け合わされば、物語が自然に動き始めると思うのだ。

私のように、あらかじめアイデアやテーマを持たない者には、物語の始まりに必要な二つの要素を、悩むことなく機械的に設定してしまいたいのだ。

主人公と社会の問題は全くの無関係で構わない。むしろ関係無い方が、化学反応のように予想を超えた面白い物語になるような気がする。

主人公と社会の問題の組み合わせが決まれば、その他の物語の要素は自然に生まれてくるに違いない。

主人公を決める

組み合わせる二つの要素の内、最初に主人公を決めたい理由は、社会の問題を先に決めると、そのことに縛られて、主人公を決めるのに影響を受ける恐れがあるからだ。

私はどんな物語を作ろうかというようなアイデアや、こだわっているテーマは持っていない。この段階でどうやって主人公を決めれば良いだろうか?

やはり自分の中に求めるしかないだろう。

  • 自分が気になる話題の人物から借りてくる。
  • 過去の自分の体験から借りてくる。
  • 過去に読んだ物語や映画・ドラマから借りてくる。
  • 自分の理想や夢の世界から借りてくる。

これらから主人公を発想できると思う。特別なヒーローやヒロインである必要はない。物語を通して、ある意味のヒーローやヒロインになれば良いのだから。

今回はとりあえず、私の50年前の体験から借りてくることにした。19歳の大学生の私が、あるハンバーガーチェーンでアルバイトした時の記憶を使うことにする。

自分の体験と記憶を元にするが、主人公にするためにフィクション的な要素を盛り込む。特に必要と思うのは、長所と短所、抱えている夢や悩みなどを設定しておきたい。主人公のプラスとマイナスの要素だ。

主人公のプラスの要素

  • 生真面目で嘘がつけない。
  • 器用ではないが、単調な仕事でも文句を言わない。
  • 遊んだり、お金の無駄遣いはしない。
  • 自分には何か特別な才能が隠れていると思っている。
  • お金より大事なものがあると信じている。

主人公のマイナスの要素

  • 人付き合いが苦手で無口な性格。
  • 興味はあるが、女性を前にすると極度に緊張する。
  • 良い人に思われるが、印象は薄く存在感は少ない。
  • 他人の成功を嫉妬して素直に喜べない。
  • 他人に利用されるだけのお人好しの面がある。

これらの二種類の要素の一つ一つは、物語の中での一つのエピソードに成り、主人公の性格を現す元になる。

社会の問題を決める

主人公とは全く関係のないことで、過去でも現在でも未来でも構わないから、社会が抱えている(抱えていた、抱えるかもしれない)問題を一つ決める。

社会の問題を決めたいのは、社会性の広がりや共通性によって、読者に共感や共有をしてもらいやすくなるからだ。

個人的な問題でも良いのだが、個人的な問題は狭い範囲に限定されやすいし、同じような問題に偏り勝ちになる。社会的な問題の方が常に変化しているので選択肢が広くなる利点がある。

ちなみに、今日本社会や世界が抱えている問題をいくつか挙げてみると、

  • お米に象徴されるように物価の高騰。
  • 少子高齢化や、過疎化と都市集中。
  • 正規、非正規など、所得格差の二極化。
  • 人権に係るハラスメントやジェンダー問題。
  • 中東や東ヨーロッパなどの紛争の継続化。
  • AIによる人間の仕事が奪われる危機。
  • 気候変動や食糧不足、未知の感染症の発生。

さすがに問題が大きすぎて、これから作ろうとする物語との格差がありすぎるような気がするが問題はない。

これらの社会問題のどれかを選んで、問題の本質は抑えつつ、もっと身近な問題に落とし込めば良い。

どの問題を選ぶかによって、作られる物語は変わってくるが、主人公のことは考えずに問題を選ぶことにする。

今回は「所得格差の二極化」を選ぶことにした。特に理由はない。

主人公を社会問題の中に放り込む

ハンバーガーチェーンで働く青年と貧困問題の組み合わせだ。

貧困に苦しむ状況に青年を放り込んで、面白い展開になるように想像を膨らませてみる。

こうなったから、次には当然こうなるだろうみたいに想像しても、面白く成りにくいので、飛躍した展開を想像するように努力したい。

主人公がその社会問題の中でどうなったら面白いか?

青年と貧困を結びつけたので、物語の大筋を考えたい。

貧乏に苦しむ青年がどうなったら面白いか?を考える。

  • あるきっかけで青年は大金持ちになる。
  • あるきっかけで青年は大きな罪を犯す。
  • あるきっかけで青年は英雄になる。
  • あるきっかけで青年の生き方が変わる。

今の私の心境では、貧乏な青年が、あるきっかけでどう変わるかは別にして、不幸になるより幸せに向かう物語にしたいと思う。

大きく分ければ成功物語になるが、独自の要素を盛り込みたい。何が良いか?

成功の仕方、どうやって成功するのかを工夫したい。今までにないような成功の仕方を考えられたらオリジナル色が強くなって面白そうだ。

それから、青年は成功する前に罪を犯してしまうのも取り入れたい。順調に成功するより緊張感があって良いだろう。

青年はどうやって成功したら面白いか?

貧乏な青年にはお金がない。お金を使わずに成功したい。

青年はハンバーガーチェーンで働いている。おそらくアルバイトだ。他にももっと歩合の良い仕事があるはずなのに、どうしてそこで働いているのか?

ハンバーガーチェーンでは、作った品物が一定の時間が経つと廃棄処分にしてしまう。毎日かなりの量が発生する。

青年は破棄される品物に目を付けていたことにする。
「まだ食べられるのに捨てるなんてもったいない。どうせ捨てるんなら、俺がもらう」

青年は廃棄処分される予定の品物を盗み、それをどこかに流して利益を得ようと考えた。どこに流せば、表面化せずに安定した利益を得られるか?

ただで仕入れた品物をどこかで売らなくては利益にならない。「どこで売るか?しかも安全に?」

青年は最初ホームレスに売ろうと考えた。しかしホームレスの数は少なく、高くは売れなかった。

青年は、店には多くの若者が買いに来るのを見て、学生に売ったらどうかと思いついた。

青年は、捨ててあった廃材や自転車を使って屋台を作り、ある大学の校門の外に店を構えた。

廃棄されたとはいえ、名のある店の商品なので、フライパンの上で火を通し直せば、出来たてのハンバーガーと言われても疑いようがない程の美味しさだ。

こうして青年は夜はハンバーガーチェーンで働き、昼時に盗んだハンバーガーを屋台で売って稼いだ。

値段も安いとあって、青年の屋台は昼時になると列が出来る程だった。

「客が増えてきたので、もっと仕入れたい」青年に欲が出て来る。

青年は廃棄処分されるハンバーガーが、深夜の決まった時間に店の裏に出されて、チェーン店の回収車が持っていくのを知っていた。

青年は他のチェーン店の廃棄品も盗もうと考えた。回収車が来る前に拝借しようというわけだ。全部盗んでは怪しまれるので、疑われない程度は残しておいた。

こうして青年は仕入れを増やしていった。オンボロだった屋台は中古のキッチンカーに代わった。

青年にどんな危機が訪れるのか?

廃棄した商品を盗むのも罪なのだが、青年の罪の意識は薄かった。廃棄されるものを役に立てている気でいた。

屋台は何度か警察官の注意を受けたりしたが、学生の役に立っていることもあって、次第に見逃してくれるようにあった。

保健所の営業許可はなんとか取っていたし、青年はこのまま稼ぎ続けることができると思っていた。

ある時、客足の途絶えたキッチンカーに、汚れた服を着た中年の男が訪れる。

男の長く伸びたボサボサの髪は、陽に焼けた痩せた顔を不潔そうに覆っている。

「このハンバーガー、捨てたやつ」

中年の男の言葉に青年は驚く。ニヤリとする男の顔に見覚えがあった。ホームレスに売りに行った時に見た覚えがあった。

ホームレスに売ったハンバーガーは、店の包み紙のままだったので、この男にも知られてしまっていたのだ。

ホームレスの男は汚れた手を青年の前に出した。

「お金、お金」

青年は仕方なく男に金を渡した。男は金を受け取ると黙ったまま青年を見上げていたが、他には何も言わずに帰って行った。

片方の足を引きずるようにして去っていく男の背中は、歳よりも丸く感じられ、病気のひとつも抱えているように感じられた。

「あいつはまたきっと来る」青年は不安になった。

青年が心配した通り、ホームレスは毎週末に現れては金を受け取って行った。

青年はホームレスの男をこのままにしてはおけないと考えていた。しかし、どうしたらいいのか迷っている。

男が憎かったが、殺人を犯すほどの儲けのある商売ではない。かといって、このままお金を貢ぐのも我慢できない。では、どうしたら排除できるのか?

思い余った青年は、ある夜ホームレスのねぐらに忍び込み、男を殴った。痛い目にあわせれば男は諦めると思ったのだ。

「もう来るなよ」

ホームレスは抵抗しなかった。抵抗するほどの体力を持っていなかった。ホームレスは殴られて痛みにうめくだけだった。

ホームレスの男は諦めなかった

しばらくして、キッチンカーにホームレスの男がまた現れる。

ホームレスは、唇の端の治りかけた傷をさすりながら手を出した。ニヤリとしている。

青年は何も言えなかった。仕方なく男にお金を渡そうとした。すると男は、出した手を引っ込めた。

「もっと、お金」

青年はお金を増やして渡した。男はまたニヤリとしてお金を確かめると帰って行った。

青年は悩んだ。「もっと痛い目にあわせないと駄目なのか?」

しかし、あの男は痛めつけても諦めるように思えなかった。あの男にとって青年は美味しい金づるなのだ。しかし、殺すことなんて馬鹿らしくて出来ない。でも、これ以上お金を渡したくない。

青年は考えれば考えるほど、自分がもっと大きな罪を犯してしまいそうな気がした。

理性では否定しても、頭の中では何度もホームレスの男を殺した。

青年は自分がどんどん追い詰められていることに苛立ちを強くしていた。

「もう、止めてしまおうか?」

青年は全て投げ出してしまいたくなった。でも、今以上に稼げる仕事に付けると思えなかった。

高校中退の青年にとって、正社員になれる希望はなかったし、他の安いアルバイトで生きていく気にもなれなかった。

青年の転機

青年は殺さない程度に、もっと男を痛めつけるしかないと考えた。

青年はナイフも用意して男のねぐらに向かった。痛めつけるだけでなく、ナイフで脅せば諦めるかも知れないと考えた。

ホームレスのねぐらに近づくと、男は何かを食べていた。よく見るとハンバーガーを持っていた。男は夢中で食べている。

そのハンバーガーの包み紙は、青年が盗んでいるチェーン店のものと同じだった。

薄暗い中で、ハンバーガーを食べる音だけが聞こえる。青年は男が食べるのを見つめていた。

「あの男も、あの店のハンバーガーを盗んでいたのか?」

あの男がハンバーガーを買っているとは思えなかった。

「もしかしたら、あの男は俺よりも先に廃棄されたハンバーガーを漁っていたのかもしれない」

男の食べっぷりを見ながら、青年は自分があの男の食い扶持の邪魔をしたのかも知れないと思った。青年は男の食い扶持の恨みを買ったのだと思った。あの男のしつこさから、そう思えてならなかった。

男はハンバーガーを美味しそうに食べている。男にとっては唯一の楽しみのように味わいながら食べている。

青年は静かに男に近づいた。持っていたナイフは上着のポケットにしまった。

青年に気づいた男は、驚いて逃げようと立ち上がった。

青年は男の前にヒザマづいた。

「俺が悪かった。殴ってすまなかった」

男は食いかけのハンバーガーを持ったまま、ぽかんと口を開けている。

青年は頭を下げたまま、何度も謝った。青年の目からいつの間にか涙が流れていた。何の涙か青年にも分からなかった。自分を正直にさらけ出した涙だった。思いつめた緊張が溶けたような涙だった。

男は立ったまま、わけが分からないまま黙っている。

青年はやっと顔を上げた。

「良かったら、仕事を手伝ってくれないか?」

男は黙って聞いている。

「廃棄されるハンバーガーを集めるのを手伝ってもらえないだろうか?」

ようやく意味の分かった男は、青年の前に置かれた箱に座った。青年は話を続けた。

「手伝ってくれたら、売上の半分を上げるから」

ずっと黙ったまま聞いていた男は、ポツリと答えた。

「いいよ」

男はそれ以上何も答えなかった。青年には男が少し知的な障害があるようにも感じられた。

何度も青年に殴られたのに、男の目に恨みの影を見ることが出来なかった。

青年は男がどんな人生を生きて来たのか想像できるような気がした。

「こんな弱い立場の人を、俺は何度も殴って…」

青年はまた頭を下げた。涙が膝に置いた手の上に落ちた。

こうして、青年とホームレスの中年男との共同作業が始まった。

青年はホームレスにお金を払うだけでなく、ホームレスの身の回りもきちんと整えるように気を配った。

次第にホームレスの男の着ている服が清潔になり、やがて古くて狭いアパートの部屋を借りられるようにもなった。

何年か二人のキッチンカーの稼業は続き、ハンバーガーの独自の作り方も味の出し方も身についた青年は、盗むことも止めて小さな店を構えた。

その後、その店と二人がどうなったのかは知らない。直ぐにその店は閉店になったとも、もっと大きな店に引っ越したとも、いくつか噂があったが、今店のあった場所を訪れても何も残っていない。

今回の物語を考えた感想と反省

今回は大きな流れを追いかけ、細かいエピソードはほとんどない。

展開ももっと違った方向もあると思う。ただ、物語を作る工程は、なんとなくつかめたような気がする。

主人公の情報をもっと細かく設定したら、違うアイデアが出てくると思う。家庭環境とか生い立ちとか、物語以前の情報が物語を考えるのに必要だと感じた。

主人公の障害になる登場人物に対しても、もっと詳細な設定を決めておいたほうが良いと感じた。

主人公が変化する部分が物語では最も重要で、ここにリアリティを持たせるのが難しいと思った。まだまだ嘘っぽくしか出来ないのが悔しい。

出来栄えは別として、何もないところから、物語を作ることは私にも出来そうだと思った。

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